あの子が変わっていく


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ジョージは恋ばかりしてるのか?と思われるとは思うが、その通り思春期の頃の僕は恋ばかりしていた。

中1の時に訪れてた本当に一瞬のキラキラしてたモテ期が終わった僕は、それからずっと下を向いて歩くような人生を送ってた。

「もう、この町から出るしかない。ここでは僕のチェリーパイは腐ってしまう。都会の女性に食べてもらうしかない!」

すでにこの町に対する期待など何も持ってなかった僕は何も考えずに通ってた中学校近くにある高校に入学した。

後3年の我慢だ。後3年我慢すればエヴァンゲリオン葛城ミサトみたいな年上の都会の女性に会える。

そこで、

「君が新人のジョージ君?私、葛城ミサトよろしくね!後で大人の飲み会教えてあげる。もちろん私が奢るから!ジョージ君は気にしなくていいからね、私からのサービスサービス!」

こんな未来を迎えるためには僕も後3年間は我慢しなきゃならん、ここから逃げちゃダメだ!

そんな不純な思いを抱きながら迎えた高校の入学式。


あの子が突然、僕の恋のフレームの中に飛び込んで来た。

あの子を見た瞬間、僕の中の篠山紀信が即座にシャッターを切った。

ショートカットで二重の大きな目、背は小さくて本当に人形のような可愛さを持った女の子の名前は、

「みさきちゃん」(仮名)

僕は一瞬で、みさきちゃんに心を奪われた。僕の恋のフレームの中には、いつも、みさきちゃんの姿が写し出された。見ないようにしようしようと思えば思うほど、僕の視線は彼女に釘付けになった。

ある日、僕が教室の前に並んでる本の一部をノートに書き写そうとそこに行ってた時に、みさきちゃんが僕の席に座ってるのが見えた。僕の前の席の女の子とみさきちゃんが仲が良かったから、僕の席に座って、その友達と談笑していたのだ。

僕は密かにガッツポーズ。布一枚隔ててると言えど、僕の太もも裏と、みさきちゃんの太もも裏が椅子を介して間接お見合いしてる!!

これはもう、みさきちゃんからの告白と受け取っていいのではないか? 

いやいや待て。ここは焦ってはダメだ。僕がすぐに自分の席に戻ると、せっかくのみさきちゃんの僕への告白チャンスを僕自身が潰してしまうことになる。

ここはトイレだ!僕がトイレに行くことで、みさきちゃんから僕に対しての告白タイムの時間を長く使ってもらいたい。

ここはさり気なくトイレに行くべきだ!

そして、みさきちゃんの方をチラリと見ながらトイレに歩いて行こうすると…

なな、なんと!

さきちゃんが僕の机の中をまさぐってる!!

これはなんだ!どうとらえたらいいのだ?

僕の机の椅子にみさきちゃんが座る事が僕への告白になるのなら、僕の机の中にみさきちゃんが手を入れて、まさぐるとなると、これはもう間接的な愛撫としか思えない。

さきちゃんの積極的な行動に、僕はもう昇天寸前だ。

僕は休み時間いっぱいをトイレの中で過ごして、平静を装って自分の椅子に座った。次の授業の準備をしなけりゃならない。さっきまで、みさきちゃんの白桃のようなお手々が入ってた机。ここに僕の手を挿入するとなると、これはもう、二人の初めての手繋ぎデートと一緒なのでは?

そんな思いで机の中を覗いてみると……

なな、なんと!!

僕の机の中の教科書が整理整頓されてる!!

僕はバラバラに教科書を押し込んでたから、間違いなく、みさきちゃんの仕業だ!

これはもう、告白、初めての手繋ぎデートを飛び越して、2人の新婚生活が始まってると言い切ってもいいのではないか!!

もう、僕の心は決まった。みさきちゃん、僕には君しかいない。君のいない世界は考えられない。僕は君のために生きる。いや、君に会うために僕は生まれてきた。

君を幸せにする!この先ずっと君を守る!!

僕はこの時に決めたんだ。君の僕への勇気を出しての間接的な告白。僕はしかと受け止めたよ。

 

しかし、男子とはまったく話さなかったみさきちゃんが夏休みが終わった後から、クラスのやんちゃな男子のたつや君(仮名)と話してる姿をたびたび見かけるようになった。

たつや君は不良だよ?タバコも隠れて吸ってるし、制服も違反の学ラン着てる。タバコを吸ってるくせに高身長だし、話も上手い。しかし、高校生のくせにタバコ吸って違反の制服着てるようなルールを守らない奴は、将来はきっと浮気はもちろんのこと、薬物にも手を出すし、臓器売買や人身売買、挙句の果てに日本国政府にテロ行為を起こし、そして海外逃亡してインターボールから全世界指名手配されるに決まってる。


僕の方が絶対に君を幸せに出来る!


僕は家庭菜園が出来る庭を持ち、さらに空や山に愛されて育ったジョージだよ?初めてバスに乗る時に停留所の場所を間違えて、大事な陸上大会に遅刻するほどに、おっちょこちょいで世間知らず。こんな僕と一緒にいたなら、みさきちゃんは絶対に退屈しない!僕はTポイントを大事にするように、みさきちゃんも絶対に大事にする!いや、間違いなくTポイントよりみさきちゃんの方を大事にする男なんだ!


しかし、あんなに純真で恥じらいのあった、みさきちゃんがどんどん変わっていく…


ある時、朝に教室に入ったら、たつやくんの膝の上にみさきちゃんが座ってる!!!!

これはもう、性行為だろ………ヤマトの波動砲なみに挿入120%だろ……

僕の頭は真っ白になった。

まだ、僕たちは16才だ、ありえない。

小学校の時に女子だけが集められた授業があったが、あの時の僕は女子だけがお菓子を貰ってると思ってた。しかし、実は違ったんだ。

その授業の意味をやっと理解しだした高校1年生だ。まさか人前で性行為なんてするわけない。きっと理由があるはずだ。

そうだ、みさきちゃんがトイレに行こうと歩いてると、何かにつまづき、その時にたまたま座ってた、たつや君の膝の上に誤って座ってしまっただけに違いない、きっとそうだ!

しかし、再度たつや君を見てみると、まだみさきちゃんが座ってる!そして、たつや君の手がみさきちゃんの腰に絡まってる!!


ジョージフリーズ…


そう言えば、料理実習があった時に、たつや君が小麦粉でパンを作るために生地を手でこねてた時にこんな事を言ってた…

「この生地の柔らかさ、まるでオッパイみたいだ。ジョージオッパイを触ったことあるか?」

僕は顔を赤らめて何も答えることは出来なかったが、家に帰った時に自分の胸をだっちゅーのと無理矢理谷間を作り触ってみたのだ。これがオッパイかと…

しかし、今のみさきちゃんとたつやくんの親密さを見ると、たつや君の触ったオッパイとは……

いやだ、いやだ、考えたくない。僕は自分の心を守るために耳を塞いた。

しかし、入学式から段々と変わっていくみさきちゃんの行動が、嫌でも耳に目に入ってくる。

僕の通学路の途中で不良が集まる家があった。そこの家の前には、いつも多数の自転車が止まってたが、その自転車の中にみさきちゃんと、みさきちゃんと仲の良い女友達の自転車が止まってるのを見かけてしまった。

さきちゃんは不特定多数の不良とも仲良く遊ぶようになってたのだ。

僕のみさきちゃんを好き過ぎるあまりの挙動不審さは、みさきちゃんにも当然丸わかりで、みさきちゃんは、たまにイタズラっぽく僕をじっと見つめる時があった。

僕はその視線に気づき、さらに挙動不審となり、顔を真っ赤にするのであった。


そんなある日、実家の電話が鳴った。

母親から僕を呼ぶ声があり、僕は電話口に出た。

すると聞こえて来た声は……

「わたし、わたしよ、みさき。あんた、わたしを好きなんでしょ?」

そんな声が聞こえた。しかし、男の声だ。

僕はなんだコイツと思って、

「誰?誰や?お前は誰や?」

強気でそう言ってたら、電話の向こうの声の口調が明らかに変わった!

「おい!舐めんなよ!お前!!お前、みさきのことが好きなんやろが!!調子に乗るなよ!!お前なんかを、みさきが相手するわけないやろ!!」

僕は光速より素早くビビって、すぐに全面降伏してしまい、

「いや、そんなことないです、すいません…本当にすいません……」

と、ひたすら謝り続けた。すると電話の向こうから、

「キャハハ」

と、女の子の笑い声が聞こえた。その時、僕は全てを察した。

後で知った詳しい話だが、不良のたまり場で、みさきちゃんを好きなのがバレバレの僕にイタズラで電話をかけようという話になって、みさきちゃん公認のもと僕の家に電話をかけてみたそうだ。それが思いの外、僕がビビってひたすら謝って来たので、みさきちゃんを含めた数人で笑い者にしてたということだった。


この女の子を僕は好きだった。


そして、こんな事があって、その裏事情を知った後でも、僕は3年間ずっとずっと、みさきちゃんを好きだった。

学校が終わった後に、たつやくんと正真正銘の大人の性行為をしてる、みさきちゃんに僕はずっと片思いをしてた。

僕は入学式からずっと変わらなかったけど、みさきちゃんはどんどん変わっていった。

さきちゃんを嫌いになれたら良かったけど、僕は嫌いになれなかった。

 

こうして僕の高校生の恋は卒業と共に終わり、社会に出てからの、初めての恋に出会った。