後藤さんの墓場まで持って行く話


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ある男の生き様の話。

 

こんな人付き合いの下手な孤独な男でも、社会生活をしてた頃、タクシーに必要な二種免許というのを取りに行った事があった。

ある大きな事件(警察沙汰ではない)を起こした俺は、知らない土地で心機一転、新たな生活を始めようと思って、とりあえず寮に入ろうとタクシー会社の門を叩いたのであった。

当然ながら、タクシーに乗るには二種免許が必要だったので、その為に高校の時以来の自動車教習所に通い始めた。

 

そこに先にいたのが、後藤さん。

 

背は小さいが貫禄があり、鋭い眼光の奥には人には言えない過去を秘めてるような風貌であった。

 

普段は無愛想で、話しかけるなオーラの最上級のオーラを放ってた俺なのに、後藤さんは人懐っこい笑顔で俺に話しかけて来た。

 

「兄ちゃんも二種免許を取るのかい?」

 

俺はビビりながらも会話をし、なぜだか仲良しになってしまった。

 

後藤さんは、

 

「ジョージちゃん、ワシも人には言えんが苦労してきた」

 

「これは秘密なんだが、あの時は本当に死にそうだったなぁ」

 

「オサム、元気かのぉ、あの時の争いで疎遠になったがまた会いたい、まぁこの話は墓場まで持って行かなきゃいけないがな」

 

こちらが聞いてもないのに、後藤さんの秘密話のポケットからは秘密の話のヒントがボロボロと落ちてくる。

後藤さんはどう見ても言いたがりみたいだ。可愛い奴め。

 

俺は後藤さんのプライドを最大限に守りながら、素知らぬ顔して聞いてみた。

 

「後藤さん、俺は分かります。あなたが只者ではないのを!」

 

すると、待ってましたと言わんばかりに、スルスルと出るわ、出るわ、墓場に持って行くべき話が。

 

「ジョージちゃん、これは絶対に秘密だが、ワシは昔はヤンチャしててな。港、港に女がいて、若い衆もたくさん抱えて每日命を狙われる日々だったんだよ」

 

もはや、ヤクザなのか漁師なのか分からない単語がいっぱい出てきた。どうやら、昔の俺は凄かったと言いたいらしい。

僕の中の悪魔が顔を出し、後藤さんが、言ってほしいポイントを言ってみた。

 

「後藤さん、あなたの隠しきれない貫禄と鋭い眼光、名のある親分さんなのでは?」

 

後藤さんは首を横に振りながら呆れたようにこう言った。

 

「ジョージちゃんは本当に知りたがりだな…組の名前は言えないが、この街ではワシの事を知らない奴はいないよ」

 

俺は「每日、教官から名前呼ばれて点呼受けてるやん、ここの教習所、誰もあなたを知らんやん」

 

という言葉は飲み込んだ。

 

なんて、可愛いオッサンなんだろう、俺は必死に自分を大きく見せようとする後藤さんが大好きになってた。

俺はすぐに二種免許を取れて、教習所を卒業する事になったが、後藤さんは実技で苦労して、俺より先に教習所に来てたのに、俺を見送る立場となってた。

 

「ジョージちゃん、立派になったな。もうワシから言うことは何もない。達者でな」

 

まるで、子供を見送る親である。教習所ではただの落ちこぼれなのに。

 

その後にママチャリに乗ってる後藤さんを見かけた事がある。ママチャリに二種免許あったかな?と思ったが、男のプライドと見栄を必死に守ろうとしてたあなたはカッコよかった。

 

名のある組長ではないのは分かってた。

 

後藤さんの可愛いエピソードは墓場まで持って行こうと思ってたが書いちゃった。

 

後藤さん、ごめんね。