この世界は残酷だ、でも


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僕は高校3年間、ずっと1人の人を思い続けた。ずっとだ。ずっとその人のことを好きだった。もちろん、他にも可愛くてタイプの女の子はいた。その子が目の前を通れば反射的に見ることはあった。でもこれは恋じゃない。

 

他の可愛い子が薄着になると、反射的に目を奪われた。でもこれも恋じゃない。ただのスケベ心だ。

 

しかし、僕の3年間の恋は儚く終わったのだ。この先は大人の恋をするしかない。大人の恋なんて騙し騙されだ。

 

そんなことは分かってる。もう高校時代の恋は忘れて、大人の恋をした僕から俺への残酷な恋の物語。

 

 

 

どうやら世間では余裕のある男が良いらしい。そして俺は余裕のある男ではない。もうバレてるとは思うが…

駆け引きなんてクソ喰らえだ。というか、駆け引きが出来ない。

 

メールやLINEが来ると、すぐ返信する。気づいたらすぐだ。マッハのスビードだ。そして、相手の返事が来るまで返信してしまう。相手が俺と同じ性質なら、ずっと返信ラリーが続いてしまう。

 

余裕のある男からは本当に程遠い男なのは間違いない。

 

だからと言って、しつこい性質は持ってない。相手から何も反応が無くなれば、それはそのままだ。俺に興味ないんだなと単純にそう思い、関係は切れて行く。

 

 

そんな余裕の無い男が社会に出たばかりの時に恋をした。

 


年上の大人の女性だった。学生時代の女性とは違って、落ち着いてて、誰にでもにこやかで仕事の出来る小柄な女性だった。

単純な俺はすぐに行動に表れた。その人の前では行動がぎこちなくなるのだ。すぐに同じ部署の男の田中先輩(仮名)にバレた。

 

「お前、ゆみ(仮名)ちゃんの事好きなんやろ?」

 

「はい…」俺はそう言うしかなかった。

 

「年上なんだし、ある程度は受け入れてくれるだろうから、甘えたらいいんだよ」

 

田中先輩からは、そんなアドバイスを受けた。

 

それから、その田中先輩にはいろいろとゆみさんのことで相談をした。田中先輩は俺より4つ年上だったし、何より俺より遥かに余裕があり、まさに大人の男という感じだったから、俺も安心して相談していた。

 

そして、ゆみさんの誕生日も調べて、俺はその日が近い事を知った。俺は誕生日プレゼントを渡そうと思った。ゆみさんとはほとんど話した事がないのにだ。

 

怖い…今なら分かるが、ろくに話した事ない人間から突然誕生日プレゼントなんて怖いだろ。今ならば分かる常識だが、その時の俺は分からなかった。喜んでくれると思い込んでた。

 

そして、雨が降ってる日曜日にプレゼントを買いに行ったのだ。それも何万もする腕時計を。

 

怖い…今なら分かるが、ろくに話した事ない人間から突然誕生日プレゼントを渡されるだけでなく、それが何万もする腕時計だなんて、怖すぎるだろ。

 

しかし、ゆみさんは喜んでくれたのだ。ゆみさんが早く会社に来る時を狙って、俺も早く会社に行って、他に誰もいない時を狙って、突然誕生日プレゼントを渡したのにも関わらず、ゆみさんは喜んでくれた。

 

「ジョージくん、ありがとう」

 

そう言ってくれた。これが年上の女性の余裕か…痺れた。嬉しかった。心の中で飛び跳ねて喜んだ。

 

もう恋は成就した。ゆみさんをずっと守る!ゆみさんと俺中心で世界は回るのだ!

 

俺はすぐさま相談してた田中先輩に報告した。

 

「良かったな」

 

先輩も喜んでくれた。

 

しかし、しばらくして同じ部署の他の女性たちから不穏な噂を聞いた。「ゆみちゃんと田中くん付き合ってるらしいね、一緒の車に乗ってるの見た人いるらしいよ、あそこのホテル街で」

 

俺は衝撃を受けたが、そんなはずはない、そんなバカなと噂を信じようとはしなかった。

 

しかし、前から不思議に思ってたことがあった。同じ部署で駐車場が決まってて、どうしても誰がどこに車を停めてるのかが分かるのだが、ゆみさんの車がいつも田中先輩の車の隣に停まってるのだ。田中先輩が後から会社に来たならば、田中先輩がゆみさんの車の隣に停めてる可能性があるが、田中先輩が後から来た時はゆみさんと車が隣同士になってないのに、田中先輩が先に来た時は必ずゆみさんと田中先輩の車は隣同士で停まってるのだ。

 

明らかにゆみさんが意図的に田中先輩の車の横に、自分の車を停めてる!

 

その後、俺のゆみさんへの好意を知ってる、もう一人の男の先輩が田中先輩を飲みに誘って聞き出した。

 

田中、お前はゆみさんと付き合ってるのかと…

 

田中先輩の答えはゆみさんと付き合ってると。そして、本気ではない遊びの付き合いだと。ジョージには悪いとは思ったが、バレないだろうと思ってたと。しかし、本気ではないから、もう別れると。

 

 

 

さすが、世間が認める余裕のある男は違う。

 

 

 

俺がゆみさんを好きになり、その人の前で恥ずかしくて行動もぎこちなくなり、でもずっと毎日思ってて、周りにもバレバレで毎日過ごして、そしてあろうことか、ゆみさんと本気で付き合ってない遊びの男に恋の相談までして、ゆみさんとまともに喋ってもないのに、日曜日の雨の中プレゼントを買いに行って、その誕生日プレゼントを渡して喜んでもらった、ここから恋の始まりだ、この人を守る、そうだこの喜びを相談に乗ってくれた田中先輩に伝えなきゃ、田中先輩も喜んでくれた、後輩の恋の成功を喜んでくれてる、これが大人の男か、これが大人の余裕か、俺もこんな余裕ある男にならねば………

 

 

ならない。

 

そんな人を騙してても平気で過ごせるような余裕はいらない。女の人と遊びで付き合い、その人を好きな後輩の相談に乗ってる最中でも、その相手と遊びで付き合うような余裕が大人の余裕なら俺はいらない。

 

もっと無様で、相手の反応を見て、いちいち一喜一憂裕する余裕のない人間のままでいい。

 

そんな人間のまま死んでも構わない。

 

その後に、ゆみさんが会社を休んだ日があった。その日から田中先輩の車の横には、ゆみさんの車が停まることはなくなった。

 

俺は仕事以外の事を田中先輩とは話さなくなった。

 

俺のバカな恋のせいで、ゆみさんの恋を終わらせてしまった。本当に後悔した。

 

 

世界は残酷だ、でも…

 

 

俺は誰も恨んでないし、全ては俺が招いた結末だ。

 

だけど、この先は俺に関わってくれた人には俺と同じような思いはさせないように最後まで生きようと思う。

 

この残酷な世界で、1人ぐらいはアホ丸だしで何回も失敗するお人好しがいてもいいだろう。

 


人に騙され傷き絶望した人には、俺を見て、下には下がいると少しは優越感に浸っていただきたい。