強く優しい世界


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僕は訳あって、全てのお金を失った。

 

テレビドラマにある、よくある設定で、

 

「財布の中に小銭しかない」

 

こんな状況に本当になった。本当にリアルな数字として、財布の中に120円しかない時があった。こんな惨めな人生ってあるのか?僕は何のために生れて来たのか?

 

自問自答する毎日だった。

 

幸いにも、両親が最後の力を振り絞って僕を助けてくれた。今までも、ドジな僕の失敗で多数の迷惑をかけて来たが、本当に最後の最後の力を振り絞って、僕を助けてくれたのだ。

 

僕の実家はかなりの山奥だ。未だに携帯の電波が届かない地域。遠出以外は家の鍵もかけない秘境。

半径1キロ以内には10人も住んでない地域だ。噂話も、

 

「◯◯さん、新しい稲刈り機買ったみたい」

 

「△△さんの娘さんは今年の夏は帰ってないみたいやな」

 

こんな、ほのぼのとした噂話だ。

 

誰かを蹴落として、自分だけが成功しようとか、豪華な家を建てて自慢しようとか、人がいないから自分だけが幸せになろうと思う競争がないのだ。そもそも、人より幸せになろうとする心は競い合う人が必要なのだ。

 

僕の地域では、その競い合う人自体がいない。

 

僕はこんな山奥の田舎が嫌いだった。近くにコンビニもなく、コンビニに行くには20キロは車で行かないといけない。夜になると真っ暗になる地域。一晩中、輝いてる街に出たかった。そこに行けば、絶対に楽しいはず、絶対に幸せになれるはず。

 

そう思ってた。

 

でも、街に出ると、人との競争が待ってた。噂話のバリエーションが広がり、内容は黒くて暗い噂話になった。

 

田舎者の僕は傷付く事が増え、愛想笑いを覚え、嘘も覚えた。

 

そして、お金を全て失ってしまった。

 

財布の中には120円。スーパーの半額になる時間を覚え、その時間にスーパーに行き、半額シールが貼られる時間にスーパー内を普通の買い物客を装って、ウロウロと徘徊した。

 

手を顎に持っていき、

 

「今日は何にしようかしら?お鍋?それも焼肉かしら?」

 

そんな、夕飯を何にしようか迷ってるマダムのフリして、半額コーナー目当てなのがバレないように必死にカムフラージュをする日々を過ごした。

 

それでも、半額となった90円のパンを我慢した時があった。自分の惨めさに涙が溢れた。

 

そして、こんな僕の状態に気付いた両親に、僕は救い出された。

 

僕は大嫌いだった実家に戻った。

 

でも、今はこの田舎の景色が違って見える。空は青の王様のように、どこまでも青く、そして街で見るより空が近い。

 

街では、いつでも人の目があり、いつも人に良く見られようと毎日身構えて生きてたが、実家では何も見えない真っ暗な夜に安心感を覚えた。

 

もう誰も見てない、誰にも見られてない安心感。

大嫌いだった田舎の景色が、街の灯りより、今は輝いて見える。

 


人との競争や見栄の張り合い、これこそが世界を発展させて来たとも言える。

 

でもそれは、競争出来る人間同士ならば、成り立つ世界だ。世の中には競争に参加出来ない人たちもいる。

 

体の不自由な方々や、親や周りの環境によって、夢を諦めるしかない子供たちもいる。

 

今の世の中は、そんなの関係なしに強い者が恩恵を受けまくる社会だ。

 

僕は競争や争いに向いてない人間だった。馴染もうとしたが、それは自分の心に無理をさせ、結局は生まれた場所に帰るしかなかった。

 

でも、僕は自分が帰る場所のある恵まれた人間だったけど、競争が苦手で、人を蹴落とす事が出来ない、僕のような逃げ場のない心優しい人も世界にはたくさんいると思う。

 


そんな人達も包みこめる強く優しい世界、そんな世界の未来が来ることを、僕は願い、夢見てます。