この世は頑張れば必ず報われるとは限らない。
相手に尽くしたからと言って、必ず尽くした分だけの愛情が返って来るとは限らない。理不尽極まりないと思う人もいるかと思うけど、それが世の中というものだ。
俺はいろいろな恋を通り過ぎ、会社を辞め誰も知らない街に引っ越して来てた。
引っ越しして初めてそこの夜の街に行った時に、1人の女性と出会った。子供を1人抱え借金も100万は超えてて、聞くと今日が初出勤だと言った。自分に自信がなかった俺の事を「可愛い、キュート!」と言って笑ってくれた。
この人を心から助けたいと思った。そして、俺しか助けられないとも思った。
そして、出会って一週間も経たずに、その人の借金全てを背負って全て返済した。その後も、その人の生活をなんとか支えようと自分のお金が全て無くなるまで支援し続けた。
彼女を助ける為にお金が尽きてしまった俺に対して、彼女自身が俺を助けようとしてくれた。
ここまで書くと俺の尽くした愛情が返って来てると思うでしょ?
しかし、彼女は俺を助けたこと盾に、以前俺が背負った彼女の借金は何も無かったことにした。
確かに俺もカッコつけだから、お金を渡す時に「気にしなくていいから、返せとは言わないから」
と、確かに言った。しかしそう言わないと、
「もう死ぬしか無い。人からお金を借りるなんて嫌だ」
と、そんな風に言われるのだ。
一緒に過ごすようになってから、こんなやり取りを每日してた。午前3時頃まで連日だ。そこで回答が出ないから俺が自分の部屋に帰ろうとすると、
「私を見捨てるんだね。もういい、死ぬから」となる。
だから、冒頭の「もう返さなくていいから、だから借金じゃないから受けとって」という言葉になり、あれよあれよという間に、渡したお金は一千万近くとなった。最後はそのお金は俺があげたということになり、さらに彼女を助けようとしたお金はなぜだか俺の借金扱いとなり、その結果、俺は見事に一文無しとなった。
彼女は超ド級のメンヘラ、ドSモハハラ女性だったのだ。それに気づいた時にはもう遅かった。
そして、俺が彼女に助けられるようになったら、それを俺の弱みとして連日さらに激しいモラハラを受けるようになってしまった。その当時は投資で生活していたが、あまりにも激しいメンヘラ具合と激しいモラハラによって、まともに稼ぐことも出来なくなり、資産はドンドン減っていき、ついに住む部屋も無くなった。
その結果、俺の臓器を売ることを提案されたり、実家の土地や家を売ることを提案されたりした。冗談で言われたのではない。真顔で言われた。
この世に、こんな人間がいるのか?
本当に容赦ないと思った。
そんなことをされてまで、彼女と別れたくなかったのか?と思われるかも知れないが、一緒にいるようになって一ヶ月も経たない内に「この人と一緒に居てはダメだ」と思ったのを覚えてる。
しかし、俺が最初に言ったのだ。
「君を助けたい」と。
だから、相手から、
「もうあなたはいらない必要ない」
と言われるまでは一緒にいようと思い、耐えに耐えた。
相手の生活費の為にお金を渡そうとすると「そんなお金は受け取れない」と、ゴネる。だから、しょうがないと帰ろうとすると、
「もういい、死ぬから」
と、言われる。ならばと頼み込んでまでお金を渡そうとすると目の前でお金を投げ捨てられる。
ある時もあまりにも埒が明かないから仕方なく帰ろうとすると「見捨てたな」と言われるから、お金を強引に渡そうとすると、自分の車に乗り込みドアを開けてくれなくなった。
その攻防を何時間も続けた挙げ句、仕方ないから車のワイパーの所にお金を挟んで帰ろうとすると、車を発進させてワイパーも動かし、お金を道路に捨てて帰った時もあった。
ある時もお金を渡そうとしても受け取ってもらえず、説得してたら、突然、住宅街の駐車場でクラクションを鳴り響かせて止めなかったりするから、必死に謝って説得したりもした。さらには夜中に自分の車を道路の真ん中に乗り捨てて、自分はフラフラと道路の真ん中を歩いて帰ったりする。
俺が慌てて、彼女の車を運転して追いかけたら、運転席が汚れたと猛烈に怒られる。
嘘のような本当の話だが、まだまだあるよ、こんなエピソードが。
とても全部は書ききれない。俺は嫌な事はハッキリと覚えてる方だが、彼女にされた嫌なことがあり過ぎて、もう全部は覚えてない。
そして、最後には彼女が記録してる彼女に対する俺の借金は数百万に膨れ上がってた。
その中には普通にお金を渡そうとすると受け取ってくれないから、俺の事業を手伝ってくれたという名目で渡そうとしたお金も含まれてた。俺は無理しすぎて、そのお金を途中から払えなくなってたのだが、彼女はそのお金も自分への借金として記録していた。
しかし、そのお金も俺が彼女を助けたい一心で、どうやってお金を受けとってくれるかな?と思って考案した方法で、かなり上乗せしたバイト代としての金額だったのに、それを俺の借金として俺に請求してきたのだ。
書いてるだけで、自分の馬鹿さ加減に呆れる。
さっさと彼女を見捨てて第三者に相談出来れば良かったが、罪悪感が邪魔をしてそれが出来なかった。
もう、俺が死ぬか相手が俺を見捨てるかしか道が無かったが、部屋も無くなり実家に住所を移してたから、年金のお金が払えなくなった時に親が俺のピンチに気付いて助けてくれた。
その結果、親の大事なお金が数百万、俺の借金返済として彼女に渡ったのだ。
その時に親には借金の完済書だけは実名捺印付きでちゃんと受け取れとキツく言われてたので、朝の9時に完済書を持って来てもらうように彼女に恐る恐る連絡をしたら、
「家の掃除をしてる」
と言われ、夏の暑い中、車で夜の10時まで待たされた。
その時に、数百万のお金がちゃんとあるかを車の中で数えさせられた。俺の財布の中には親から交通費として振り込まれた3万だけがあったが、もしかしたら、
「今まで助けてくれてありがとう。お金無いなら、少しぐらい渡そうか?」
こんな言葉が彼女の口から、もしかしたらあるかも?と薄っすらと期待したが、しっかり数百万のお金を数えさせられて、それがちゃんとあるのを確認した彼女からの直接の最後の言葉は、
「じゃあ、元気でね」
だった。
俺にとっての、この壮絶過ぎる恋は出会ってから別れるまでの期間、実に10年以上の恋であった。
この恋で、もう俺の心も身体も全て抜け殻になってしまった。
怒りも後悔もなく、寂しさを感じる感情も無くなり、ただ息だけしてる肉塊となって実家に帰って来たのである。
この世は無情。
尽くしても尽くしても報われない、何も返っては来ない。
でも、それでいい。
この恋の結果、若い時にあれほど苦しんだ孤独さえ、まったく感じなくなった。
人に優しくするだけが当たり前。相手がちょっとでも喜んでくれるなら、それで十分だ。
だから、無収入でも毎日文章を書く日々が続けられてる。
見てくれる人がいるだけで、俺の人生に俺に優しくしてくれる人が現れたのと一緒なのだから、それが一番の報酬なのだ。
そう考えると孤独を感じなくなり、人が少しでも喜ぶと嬉しくなる俺は、今は報われている人生なのかも知れない。