兄が忘れたラブレター


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俺には兄が1人いる。

 

なので、ビタミン家は2人兄弟だ。 

 

もう何年も会話をしていない。いや、正月やお盆に話す機会はあるんだが、兄ちゃんが家に戻って来るのが分かったら、俺は家を出て違う場所でお盆や正月を過ごしてる。

 

理由は、こんなに落ちぶれた姿を見せるのが恥ずかしいからだ。

 

兄は本当に立派な人間だ。頭は良くて高校時代は生徒会長も努めてた。

 

高校の3年間は学年トップの成績で全国的に有名な会社に高卒で入社をして、今やその会社のお偉いさんになってる。なんとも輝かしい人生だ。

 

だから、なおさら恥ずかしい…

 

こんなミジンコ以下の人生の俺なんて、どんな顔して兄ちゃんに会えばいいのか?と毎年思って、兄ちゃんから逃げ出してしまう。

 

今から心配なのは、両親が亡くなった時だ。俺に葬式なんて仕切れない。どうすりゃいいんだ…

 

両親はまだまだ元気そうだが、不謹慎だが俺は今から2人の葬式の心配をしてる。

 

俺を知ってる人間からは、まったく供花なんて届かないだろうし、今からその時の自分の身の置き場をどうしようかなんて心配してる。

 

葬式の時は俺みたいな孤独な人間は本当にダメだ。やはり最後は人脈の多さで、華やかに見送られるのが誇らしい最後だと思うんだが、俺が死んだら誰も花なんて送ってもくれない。

 

なんと、寂しい人生かな…

 

そんな俺とは対照的に華々しい人生を送って来た兄だが、就職して家を出て行った時に押し入れにある忘れ物をして行った。

 

今だにこれは本当に忘れたのか?と疑問に思ってるんだが、極めてプライベートな物、絶対に人に見られたくない物を兄は部屋に残して行った。

 

どう考えても就職先に持って行くか、自分で処分してから就職するだろ?

 

中身を見て、正直、俺は処分に困った。

 

見たくて見たわけではない。見なくちゃいけなかったんだ。兄ちゃんは就職してもういない。そして、戻っても来ない。しかし、何か得体の知れない物がクッキーが入ってた空き箱に入ってる。

 

なんだろう?そう思うのが普通だ。

 

ちなみに、今回だけじゃなく兄ちゃんか何か変な物を隠してたのは、兄ちゃんが高校2年ぐらいの時に知った。

 

いつも、夜中になるとゴソゴソと机の一番下を触ってたからだ。そして、夜中にいつもトイレにそれを持って駆け込んでた。

 

俺は不思議に思って、兄ちゃんが学校に行ってる時に机の一番下を見てしまった。

 

そこには青い目をしたカモ〜ン!オ〜ケェ〜!と言わんばかりのお股全開の金髪ギャルが裸体でコンニチワ!してる写真だったのだ。

 

俺は兄ちゃんがこんなお下劣極まりない写真を隠し持ってることに衝撃を受けた。俺と兄ちゃんは6つの年の差があった。だから、この時の俺は10才。

 

まだ、兄のこの狂乱ハレンチな行動の意味が分からなかった。だから、人知れずショックを受けたのだ。

 

しかし、俺も中学生時となったら、やっと兄の行動が分かった。夜中に机をゴソゴソしてトイレに駆け込む理由も…

 

もう何も言うまい。男ならば必ず通る思春期の桃色小道なり…

 

だから、兄ちゃんが就職した後に押し入れの一番上の場所にポツンと置き忘れてたであろうクッキーの入ってた怪しげな空き箱…

 

これは間違いなく、新たなハレンチ写真、まさに残り香ならぬ、残りエロチカカーニバル写真だ!

 

これは、確認せねばならない。いや、決して確認したいわけではない。しかし、これを母親が確認したらどうなる?いくら就職でいなくなったからといって、中から青い目をしたオッパイ未確認飛行物体を母親が見てしまったら…

 

兄の威厳は地に落ちてしまう。

 

これは、もう俺が確認しなきゃならん!

 

いや、確認したい!!

 

そんな壮大な思いでクッキーの箱を開けて見たら…

 

なんと、兄ちゃんが初めて付き合ったであろう彼女からのラブレターと写真が残されてあった。

 

これを見て、なおさら思った。

 

「こんな物、普通、忘れて行くか??」

 

残ってたのはこれだけなんだよ、兄の私物は。

 

どんな選択肢で、これだけを忘れて行ったんだ??

 

本当に今だに謎なんだが、俺はしょうがなしに中身を読んだ。

 

俺の兄のショーン(仮名)はどうやら彼女から「ショーちゃん」と呼ばれてたらしい。

 

彼女の名前はりえちゃん(仮名)高校1年生。

 

りえ 「ショーちゃん、昨日は初めて一緒に帰れて嬉しかったよ。また一緒に帰ろうね!」

 

なんとも初々しい。こんな青春ドラマのような恋してたのかよ、兄ちゃんは。俺の高校時代なんて、みさきちゃんにゾッコンラブで、一緒に帰るどころか1人で20キロの自転車通学してたってゆうのによー、兄ちゃんは一緒にラブ注入して帰宅かよー

 

りえ 「今度の体育祭、なんとか成功させようね!ショーちゃんがリーダーで本当に頼もしい。私もなんとか力になるね!」

 

どうやら、体育祭の委員会で一緒になって、体育祭を成功させようと頑張ってるみたいだ。なんだよー、まるで学園ドラマでよく見る、体育祭を一緒に頑張ってさらに恋が燃え上がる胸キュンストーリーみたいじゃねぇーかよー、俺の高校時代なんて、みさきちゃんに陰で小馬鹿にされて男友達に家まで脅しの電話されてたのによぉーなんだ。この違いは?

 

しかし、後の方のラブレターではなんだか雰囲気が変わってくる。

 

りえ 「ショーちゃん、今日はなんだか上手く話せなかった。無言が多くて、よそよそしくなってしまってごめんね」

 

あら、これは不穏な雰囲気。何があった?

 

そして、最後の手紙では、

 

「ショーちゃん、今まで本当にありがとう。私はショーちゃんの彼女に相応しくなかったと思う。最後の方はお互いが無言で帰る日が多くなって、ショーちゃんに負担をかけてるのが分かった。就職しても頑張って下さい。本当にありがとう!バイバイ!」

 

確か、こんな内容の終わり方だった。

 

兄の恋は兄の就職とともに終わったようだ。

 

2人のピースしたツーショットの写真もあった。体育祭で応援団長してる兄の写真、りえちゃんもハチマキしてた。

 

ザ・青春!

 

クッキーの空き箱の中には兄ちゃんの青春と恋の終わりが入ってた。

 

恋多き俺からの目線で言うと、これは兄ちゃんに積極性がなかったのが問題だったと思うなー

 

もっとアグレッシブに攻めなきゃ!

 

女はカモメ、ちゃんとしっかり捕まえてないと、すぐにどこかに飛んでっちゃうよ!もっとグイッと、

 

「りえだけの巣箱になりたい!」

 

これぐらいは言わなきゃダメたったんじゃないかな?

 

なんだか、兄ちゃんの忘れた(?)ラブレターを読んでたら、俺までりえちゃんと付き合ってた気になったよ。

 

しかし、知りたくもない兄の淡い恋を思いがけず知ってしまい、そして、俺がコッソリと燃やして後処理をした思い出を書き記した。

 

本当に謎だ。なんで、ラブレターを忘れて行ったのか?俺に見せたかったのか?

 

しかし、俺から兄に聞くわけにもいかないし、この話は墓まで持って行くつもりだ。

 

 

まぁ、ここに書いたら全世界に公開されるが、俺も兄ちゃんも誰だか分からんだろうから、まぁいいか。